• ようこそ  ゲストさん

明日も来るよ 医療保育士の現場から


2009年10月19日掲載

<上>治療と発達の両立サポート

長引く入院。子どもたちに「育ちの場」を。

プレイルームで保育をする中村さん(右)。「どの色が好き?」子どもたちに話しかける=神戸市須磨区高倉台1、兵庫県立こども病院

プレイルームで保育をする中村さん(右)。「どの色が好き?」子どもたちに話しかける=神戸市須磨区高倉台1、兵庫県立こども病院

 午前8時半、兵庫県立こども病院(神戸市須磨区)。白血病や脳腫瘍(のうしゅよう)の子どもたちが入院する血液主体病棟のナースステーションでは、日勤看護師の申し送りが始まった。

 夜勤の看護師から病状や点滴の変更などが早口で報告される。合間に「ほとんど眠れていません」「初めての入院で時々泣いています」といった様子が伝えられると、保育士の中村直子さん(36)が手早くメモを取った。

 同病院には常時約230人の子どもが入院している。期間は平均19日だが、1年以上に及ぶ例も少なくない。その間の心身の発達を考え、1970年の開院当初から保育士が病棟にいる。看護部に所属し、中村さんら5人の保育士がいる。

 遊びの楽しみや人間関係を通して子どもは成長する。入院中も創作活動などができる育ちの場が必要だが、小児医療の現場では長く治療が最優先されていた。入院中のQOL(生活の質)や退院後の暮らしなどを考え、保育が重視されるようになったのは最近。早期から実践してきたこども病院は例外中の例外だ。

 入院中でもすべての時間が治療に費やされるわけではない。遊びで気分転換になれば、つらい治療にもより前向きになれる。一見、医療とかけ離れて見える保育は、実は密接な関係にあり、チーム医療の一部になりつつある。

 午前9時半、中村さんは病室の子どもたちに声をかけ、プレイルームの掃除を終え、ある病室に向かった。「けんちゃん」と呼ばれる2歳の男児をプレイルームに連れ出すためだ。

 お気に入りの、オレンジと白のボールを穴に入れるおもちゃで遊ばせる。ほかの子が近寄り、ボールを一つ取ってしまった。「そういうこともあんねん」。同年代の子たちとのかかわりも貴重な経験だ。

 4月に入院したけんちゃんは、治療で横になることが多かったせいか、間もなくお座りができなくなった。母親と相談し、5月ごろから1対1の保育が始まった。

 治療と発達の両立が困難なケースは少なくない。感染症を防ぐため、「クリーンカーテン」で仕切られたベッドで数週間安静を保つと、歩くこともままならなくなる子もいる。

 けんちゃんの保育では、じゅうたんなどで背中を支えながら座らせ、徐々に時間を延ばした。最初はおもちゃに関心を示さなかったが、座れるようになると遊びに意欲的になった。

 「上手やね」。中村さんが拍手すると、得意げな笑顔が返ってきた。

 入院中の子どもに遊びや楽しみを提供する医療保育士。米国やイギリスでは「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」などと呼ばれ、多くの施設で活躍するが、国内での認知度は高いとはいえない。現場の取り組みと課題を探った。(萩原 真)
メモ
理解広がらず、配置1割強
 あいち小児保健医療総合センター(愛知県大府市)の長嶋正實・名誉センター長らが2005年、全国3104カ所の有床小児科に実施した調査(回答率97・3%)によると、保育士を配置しているのは308カ所にとどまる。1人のみの施設が34・1%を占めた。

 配置しない理由は、最多は人件費で23・8%。02年の診療報酬改定で保育士加算が導入されたが、一定面積のプレイルームや保育士の勤務形態などの基準を満たす必要がある。「条件が厳しすぎるため、実際に加算を受けている施設は少ない」との指摘もある。調査では「保護者や看護師の対応で十分」「医療優先なので必要ない」といった回答もあった。

 長嶋さんは「現在の診療報酬制度は治療中心で、患者の生活環境の整備には点数が付きにくい。回復や治療のトラウマの解消のためにも環境が重要だということを、医療者に理解してもらう必要がある」と話す。